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――結局私はそれを一つだけ買うことにした。それからの私はどこへどう歩いたのだろう。私は長い間街を歩いていた。

離途

始終私の心を圧えつけていた不吉な塊がそれを握った瞬間からいくらか弛ゆるんで来たとみえて、私は街の上で非常に幸福であった。

小夜/SAYO

あんなに執拗しつこかった憂鬱が、そんなものの一顆いっかで紛らされる――あるいは不審なことが、逆説的なほんとうであった。

雨晴はう

それにしても心というやつはなんという不可思議なやつだろう。  その檸檬の冷たさはたとえようもなくよかった。

櫻歌ミコ

その頃私は肺尖はいせんを悪くしていていつも身体に熱が出た。

黒沢冴白

事実友達の誰彼だれかれに私の熱を見せびらかすために手の握り合いなどをしてみるのだが、私の掌が誰のよりも熱かった。

栗田まろん

その熱い故せいだったのだろう、握っている掌から身内に浸み透ってゆくようなその冷たさは快いものだった。

ユーレイちゃん

 私は何度も何度もその果実を鼻に持っていっては嗅かいでみた。それの産地だというカリフォルニヤが想像に上って来る。

青山龍星

漢文で習った「売柑者之言」の中に書いてあった「鼻を撲うつ」という言葉が断きれぎれに浮かんで来る。

東北ずん子

そしてふかぶかと胸一杯に匂やかな空気を吸い込めば、ついぞ胸一杯に呼吸したことのなかった私の身体や顔には温い血のほとぼりが昇って来てなんだか身内に元気が目覚めて来たのだった。……

櫻歌ミコ

Books

檸檬 NEW

梶井基次郎

夢十夜

夏目漱石

走れメロス

太宰治

雨にも負けず

宮沢賢治

羅生門

芥川竜之介