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けれども自分が眺めている間、金魚売はちっとも動かなかった。

波音リツ

第九夜  世の中が何となくざわつき始めた。今にも戦争いくさが起りそうに見える。

春日部つむぎ

焼け出された裸馬が、夜昼となく、屋敷の周囲まわりを暴あれ廻まわると、それを夜昼となく足軽共が犇きながら追おっかけているような心持がする。

波音リツ

それでいて家のうちは森しんとして静かである。 家には若い母と三つになる子供がいる。父はどこかへ行った。

後鬼

父がどこかへ行ったのは、月の出ていない夜中であった。

ずんだもん

床とこの上で草鞋を穿いて、黒い頭巾を被って、勝手口から出て行った。

冥鳴ひまり

その時母の持っていた雪洞の灯ひが暗い闇に細長く射して、生垣の手前にある古い檜を照らした。

ずんだもん

父はそれきり帰って来なかった。母は毎日三つになる子供に「御父様は」と聞いている。子供は何とも云わなかった。

春歌ナナ

しばらくしてから「あっち」と答えるようになった。母が「いつ御帰り」と聞いてもやはり「あっち」と答えて笑っていた。

あいえるたん

その時は母も笑った。そうして「今に御帰り」と云う言葉を何遍となく繰返して教えた。

波音リツ

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